不可能性の時代 (岩波新書)

不可能性の時代 (岩波新書)

教科書に載っていた「メディアの在り方」の筆者、大澤真幸による現代社会の深層を分析する評論。
(ちなみにこの人の評論はときどき大学入試の問題に使われたりする)
おおざっぱに言うと、筆者は戦後の日本を、「理想の時代」(1945〜70)「虚構の時代」(70〜95)「不可能性の時代」(95〜)に三区分する。それは現実の対極にあって、それを規定するものがそのようにうつりかわってきたからだと言う。そして現在は、「他者抜きの他者」を求める一方で、暴力的な「現実」に逃避することで閉塞感から抜け出そうとするという分裂した傾向が現れていると指摘している。そうした傾向から脱却するための指針を示そうとしている。
まあ、こう言うと小難しい話に聞こえるが、岩波新書にしてこんなに、サブカルチャーに話を持って行っていいのというくらい、おたくやアニメや「美少女ゲーム」まで持ち出して論を進めている異色な評論なのである。まあ、メインはオウム真理教酒鬼薔薇や連続幼女殺人事件などの分析なのだが、それだって随分センセーショナルな事件ばかりだ。しかも、普通の評論によくありがちな、同じことをくどくどと難解な言葉で繰り返すという展開ではなく、一本道で結論まで持って行くという明快な流れで書かれているので、あきることなく読み通すことができた。ただ、ちょっと他の人の論に(大塚英志とか、東浩紀とか)寄りかかりすぎてるかな、という感はあるが、本来学問とはそういうものなのか。
そういうわけで、おすすめです。
(取り上げられている作品)
浦沢直樹『20世紀少年』
大江健三郎『取り替え子』『憂い顔の童子』『さようなら、私の本よ!』
松本清張砂の器
水上勉飢餓海峡
森村誠一人間の証明
村上春樹羊をめぐる冒険』『1973年のピンボール
竹熊健太郎『私とハルマゲドン』
ダルデンヌ兄弟監督『ある子供』(映画)
山崎貴監督『ALWAYS三丁目の夕日』(映画)
メル・ギブソン監督『パッション』(映画)
新海誠監督『ほしのこえ』(アニメ)
パトリック・ジュースキント『香水――ある人殺しの物語』
桜坂洋All You Need Is Kill
ゲーム『AIR』
ゲーム『ひぐらしのなく頃に
舞城王太郎九十九十九