村上春樹ノルウェイの森』再読

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

ノルウェイの森 下 (講談社文庫)

ノルウェイの森 下 (講談社文庫)

もう22年も経つのか。映画化も決まったことだし、思う所もあって再読してみた。
年月が経っても鮮明に覚えている部分もあったし、忘れ去っていた部分もあった。
変な話、こんなにセックスがらみの部分が多かったっけ?と思った。(村上春樹の長編はみんな成人指定にした方がいいんじゃないの?)
「死は生の対極としてではなく、その一部として存在している。」と主人公は考える。
この「生」の字を「性」と置き換えてもいいんじゃないかというくらい、これは「性」と「生」と「死」の物語だ。そして、帯には「限りない喪失と再生を描く」と書いてあるが、私にとっては再生のない「喪失」だけが描かれた話に思える。
主人公ワタナベは語りの現在時では37歳、ハンブルグ空港に到着した飛行機の中で流れてきた「ノルウェイの森」を聞いて「頭がはりさけ」そうな混乱と動揺を感じた。その原因は彼の20歳前後の頃にあった。話は彼の青春時代に遡る。彼の唯一の友人といってもいいキズキが、高校3年生の時に何の前触れもなく自殺してしまった。彼は強い喪失感にとらわれながら大学生になるが、東京で偶然キズキの彼女だった直子と再会する。それから二人はしばしば一緒に会って、あてもなく歩き回るというデートのようなもの繰り返すうちに、自然に互いの距離が近付いていく……
私は恋愛小説が苦手で、まったくと言っていいほど読まないのだがこの作品だけは例外だ。いや、これは恋愛小説ではないのかもしれない。最後の方までは特にドラマチックな展開もなく、ごく日常的な生活の範囲内で話は進んでいく。にもかかわらず、全体を浸している独特な雰囲気(それは「死」と「喪失」のイメージかもしれない)に引き込まれていき、しばらく読んだ後で日常の生活に戻ろうとすると、うまく着地点がみつからない感じがするくらいだ。読み終えて間もないが、必ずまた読みたくなるだろうなと予感させられる作品だ。