『夏のこどもたち』読了

夏のこどもたち (角川文庫)

夏のこどもたち (角川文庫)

オードブルの短編3作、メインの中編(表題作)という構成。オードブルで油断した人、メインの毒にのけぞるかもしれない。でもメインの方が川島誠の本領。主人公・朽木元のキャラクターが際だつ。幼いころに不幸な事故で左目を失い、今は義眼をはめている。成績は何の努力もなくトップクラス、何かに熱くなったりせず、冷静な傍観者の目で周囲を見ている。ところがあるささいなきっかけで、校内でたばこを吸ったりする問題児高橋と一緒に、校則検討特別委員会のメンバーにならざるを得なくなる。生徒の間に、意味のない些末な校則を廃止したいという機運が盛り上がり、その意志に従って改正の準備をするというのが表向きの目的なのだが、教員の側には何か目論見があるらしい。朽木は意欲などまるでないが、高橋はやる気まんまん、委員長に立候補してしまう。高橋はやがて暴走を始め…というのが一応のストーリーなのだが、この話のポイントはそこにはなく、「世界」から逸脱した朽木の日常が淡々と、しかし不気味な感触をはらんで描かれる。川島誠は一応児童文学・少年小説のカテゴリーに含まれる作家だが、そうした不定型な生き方、「性」と「生」の葛藤のようなタブーの領域にやすやすとはいりこんでしまう、異形な才能を持っている。ただ、この作品について言えば、私的には満足感が得られなかった。もっと、朽木がアンファン・テリブル性を発揮してくれるものだと思っていたが、逆にかわいそうなくらい生命力が弱い。大人の世界のウソをあばいて、軽やかに「世界」を攪乱するような少年として描かれていたらいいのに、というのが私の勝手な期待だったので。この人の作品を読むんだったら『800』が超オススメ。(ただし、軽く15禁)
800 (角川文庫)

800 (角川文庫)