『Twelve Y.O.』読了

Twelve Y.O. (講談社文庫)

Twelve Y.O. (講談社文庫)

 久しぶりに本を読んでいて頭が沸騰したよ(『燃えよ剣』以来だね)。すごいぞ福井晴敏。私は、今はミステリーとか、ハードボイルドとか、戦争ものとか、冒険ものとか、人情ものとか、時代物とか、要するに男っぽい娯楽ジャンルの本はほとんど読まない。だって、つまらないんだもん。前はそうじゃなかったが、ある時からなぜかそう感じるようになった。この本は、たまたま安彦良和の対談集の中で作者と交わされた話に出てきた。で、ちょっと興味をひかれて、あまり期待しないで読んだのだ。(しかも「江戸川乱歩賞受賞」なんて、警戒信号出まくりだ)初めは、文章が硬くてぎこちない感じがして、「やっぱりだめか」と思ったが、拉致された平さんを「トゥエルブ」こと東馬修一が奪還するあたりからぐいぐい引き込まれてしまった。最後の最後まで予断を許さない展開、そして結末…。もうこれは私の今年のベストワンに決定だ! レビューを書くのは苦手だが、これは書かないわけにはいかない。
 始まりは、なぞのテロリスト「トゥエルブ」が、たった一人で横須賀の米軍基地を壊滅状態にする場面で始まる。この辺は強引だなあ、と思ってしまうのだが、場面が変わってだらしのないオヤジ自衛官、平貫太郎がチーマー(死語?)にボコボコにされるあたりから徐々に話に入り込んでいくことができる。ここで、平は偶然かつての恩人東馬修一に救われるのだが、その事がきっかけとなって平は日米の政府・情報機関・軍(自衛隊)の暗闘と陰謀に巻き込まれていくことになる。それは東馬こそが「トゥエルブ」であり、「ウルマ」と呼ばれる超絶的な戦闘能力を持つ少女と共に、日米を、そして世界を混乱に陥れるテロを実行に移そうとしているからだった。こう書くと、もう荒唐無稽な絵空事になってしまうのだが、いつのまにか、今私たちが置かれている現実、そこから目をそらし、あるいは気付くことのない日本の弱く、醜い部分を切実なものとして突きつけてくる、その凄さに圧倒されるようになる。そして、私みたいなぐうたらな人間までが、「これではいかん!」という気持ちにさせられてしまう。荒削りなところはいっぱいあるのだが、そんなことぜんぜん気にならなくなって、登場人物の一人一がたまらなくいとおしく、その行き着く運命を息が詰まるような思いで追いかけずにはいられない。
 情報戦争という当時としては(1998年、今から7年も前)目新しい道具立てを使っているところも抜け目なく、そうでありながら基盤の部分は根深い戦後問題であるという骨っぽさ。そこがまたいい。2005年現在、世界の状況はまったく変わっていない、どころか、ますますこの問題は複雑、深刻になっている。私もアメリカが「世界の警察」として、国連を無視してイラク戦争を行ったことに、ものすごくムカついている。でも、それは人間一人の力ではどうにもできないとあきらめている。沖縄の米軍基地の問題もそうだ。しかし、日本の国民がみんなそう思っていれば、いつまでたっても事態は変わらない。そしていつかは「危険性」が現実のものとなる。そうなってからでは遅いのだ。今、一人一人が何かを「する」こと、東馬修一が存在しないこの世界で、それが唯一の道なのかもしれない。
 そういうわけで、この夏の一番のオススメです。(私的には、平・井島というオヤジキャラが好きです)