『雅楽ー僕の好奇心』読了

雅楽 ―僕の好奇心 (集英社新書)

雅楽 ―僕の好奇心 (集英社新書)

 これは図書館のI先生が貸して下さった(I先生は御自身演奏もされ、雅楽への造詣が深いのだ)。現代文の授業の最初でやった「雅楽のバイブレーション」の出典だ。授業でやり終わる前に読みたかったのだが、時間がなくて、先日やっと読了。授業中、「東儀秀樹はカッコ良すぎて憎らしい」などと恐れ多いことを言ってしまったが、今後悔している。私自身が、この人についてよく調べもしないで、先入観だけで言ってしまったことだからだ。雅楽の名門の家に生まれたサラブレッドで、容姿端麗で、音楽の才能にあふれ、エリートコースに飽き足らず、独自の世界を歩き始めたとたん人気爆発。う〜ん、なんて恵まれた人間なんだ、コイツ!という。でも、この本を読んで、もう本当にゴメンナサイと言うしかなく、反省。この本についても、何か「雅楽についての正しい知識を広める啓蒙書」みたいなものかな、と思っていたが、そんな硬くてつまらない本ではなかった。
 確かに雅楽のアウトラインについても書かれているが、サブタイトルにもあるように、「好奇心」の赴くままに生きてきた筆者の人となりがとても面白く、また素晴らしい。育ったのはごく普通のサラリーマンの家庭(母方が雅楽の家系だった)、幼稚園のころビートルズに衝撃を受け、以後ロックのギタリストにあこがれる少年だった。だが、一方で自分の才能に限界を感じる醒めた部分もあった。それでも高校・大学・会社という普通のルートに乗ることには強い違和感を持ち、そこで少なからず縁のある「雅楽」の道に進んでいくことになる。宮内庁楽部というのは、とても厳しい職場だが、筆者はいたってマイペース、隠れてバイクで通勤したり(事故にあって死にかけたこともある)、スケボーを持ち込んで遊んでいて、コケて怪我をし、師匠から大目玉を食らったりするヤンチャな人。ただし、音楽を愛する気持ちは人一倍で、めきめきと上達していくのだ。
 そして、ただ演奏することが好きなだけでなく、「雅楽」・「音」というものが持つ不思義な力に興味を持ち、また「雅楽」のルーツをたどってシルクロードをさすらったりもする。それは全て「好奇心」に突き動かされてしていることで、ただ伝統を守ることだけに「使命感」を持っているというのではないのだ。そういうところに魅力を感じる。特にこんな部分。(以下引用)

 僕が大きな目標を立てなかったり、自分の進路を決め付けたりしないのは、どこにわくわくできるものが転がっているかわからないからだ。グッとくるものがあれば、すぐにそこに足が向く。とにかく子供の頃から好奇心がいっぱいあって、それがそのまま大人になっても増殖を続けている感じだ。
(中略)
 一年後の僕はどうなっているだろうか。きっとまた新しいことに心を奪われていそうである。想像のつかない、まだまだ未知数である自分にわくわくする。

 筆者は真の「奇妙な冒険者」といって間違いない。(比べたら、私なんか、冒険者じゃなくて、漂流者だよ)
 あと、「陰陽道」と雅楽と宇宙の関係とか、「打ち合わせ」とか「ろれつがまわらない」とか普段何気なく使っている言葉が実は雅楽の用語から生まれたものだとか、筆者が奇跡的な生命力で死を免れた話とか、読みどころ満載。これもこの夏のオススメです。