長くて読めないのは私だけではないと思うので、すぐ読める短編をオススメしておきます。しかも短編集の一作品だけ。
ISBN:4163166300 レキシントンの幽霊
レキシントンの幽霊』から、「七番目の男」。前に3年生の「現代文」の教科書にも載っていました。怖い話。台風の後、海岸で起きた悲劇。自分のせいで親友が亡くなってしまったら、どんなふうになるんだろうか。普段そんなことを私たちは想像もしない。だが、それは確実に精神のあり方を切り刻むことになるんだ、ということを淡々と、でもクリアーに描き出している。そこで自分の人生までを終わりにしようとするのか、それともそのことに関係のある一切のことを自分の人生から排除して生きようとするのか、問題はそこにある。それは、夏目漱石の「こころ」という作品のテーマと深くつながっている。
二つ目は『神の子供たちはみな踊る』の「かえるくん、東京を救う」
ISBN:4101001502 神の子どもたちはみな踊る (新潮文庫)
これはさっきのとうって変わって、コミカルでシュールな作品です。まず、笑えます。しかし、読み終えた後、深く考え込まずにはいられません。自分という存在は、自分にとっては唯一のかけがえのないもの、ということは誰でも言い切れるでしょう。しかし、一歩下がって客観的に見ると人間は、周囲との関係、社会的な地位、与えられた才能や境遇、といった自分の外側の尺度がなければ、「生きている」とは言い難いことも否定しようがありません。そして、多くの人間は、そうしたものにそれほど恵まれていません。そうであれば、自分には何の価値もないのではないか、という暗い考えが芽生えない人は、そんなにいないと思います。そこに「かえるくん」という超越的な存在がどう関わってくるのか、果たして主人公は自分にしかできない、重要な使命を通して、何を得るのでしょうか。まあ、そのこと抜きでも楽しめるし、最後に切ない気持ちを抑えることはできないでしょう。