『機関童子・帝都物語外伝』読了

機関(からくり)童子―帝都物語外伝 (角川文庫)
昔大好きだった『帝都物語』の番外編。たまたま図書室で見つけたので読んでみた。荒俣宏トリビアの泉に時々出てくる人。メガネかけて、恰幅が良くて、やや禿げあがっているおじさん。本当は小説家ではなく、博物学者?。知識も著作もハンパなものではない。)は小説家としてはちょっと難があるのだが、発想と博識さで読ませてしまう力業の持ち主である。久々に読んでみたら、何か小説としてはすごくうまくなっているのに、逆に発想がうすまってしまっていた。あまりオススメではない。あなたが加藤保憲マニアなら別だが。
筋書きは、ちょっとメタフィクション的にひねってある。この話の中では『帝都物語』の世界はあくまで小説として扱われ、加藤保憲は架空の人物であるという設定で始まっている。ところが、ある精神病院で起こる奇怪な事件によって、じわじわと加藤が現実世界に姿を現し始めるのだ。VTRを使った洗脳によって、おどろおどろしいからくり人形を憑かれたように作り続ける人形師、夜ごと繰り返される奇妙な仮装行列、はたして加藤は「この現実世界」に降臨するのか?
帝都物語』はもう20年以上も前に書かれたオカルト小説で、映画やアニメにもなっている。江戸が東京になった時から、近未来にいたる長い物語である。だから主人公は何回も変わっているのだが、陰陽道や呪術を使う、悪の化身である加藤保憲は術によって不死の体を得てずっと「東京」の破壊を目論む者として存在し続ける。いわば裏の主人公である。全体として読むとちょっと難のある小説だが、明治・大正篇は抜群に面白い。話はいきなり飛ぶが、平城京や、平安京陰陽道に基づいて場所を選び、作り方にしても様々な呪術的な防衛がなされていたというのは紛れもない事実だ。でも、明治維新によって近代的な首都となった東京はそんなこととは無縁だろう、と思うのが普通だ。しかし、実は帝都・東京にも霊的な守護の仕掛けがいたるところに施されていた、というのがこの話のポイントなのである。しかも、その一部は本当に現実として行われたことなのだ。今も、東京の中心部、現代的なビルに囲まれて、ひっそりと存在している平将門首塚はその最も分かりやすい証拠だ。その将門の怨霊を呼び覚まして帝都の破壊を執念深く目論む加藤保憲の目的とはいったい何なのか?近代化によって表の世界から切り捨てられた伝統的な呪術・陰陽道をあやつる主人公たちは彼の策謀を撃ち破ることが出来るのか?そういうハラハラドキドキと、妖しい幻想が交錯する話のルーツがそこにはあるのだ。(ライトノベルにも影響を受けているのが多いんじゃない?)兎に角、『帝都物語』の3巻ぐらいまでは、超オススメです。