『川の深さは』読了

川の深さは (講談社文庫)

川の深さは (講談社文庫)

福井晴敏が『Twelve Y.O.』乱歩賞を取る前の年、賞を取り損ねたのがこの作品。二つの話には何かつながりがあるらしいというので読んでみた。おぉ、そうか、パラレルでリベンジなのか!しかし、あらかじめ断っておくが、この本はオススメとは言えない。『Twelve Y.O.』のほうがレベルが上だとはっきりわかる出来だからだ。確かに乱歩賞を取っていてもおかしくはない程度には面白いが、まだまだ、なのである。皮肉な言い方だが、これが賞を取らなかったことは作者にとっては「幸運」だったと私は思う。作者は落選した時、がっかりはしただろうが、それ以上にリベンジに燃えたのだとおもう。そして、どうしたら読者を惹きつけることができるか、必死に考えたに違いない。それが見事に結実して、『Twelve Y.O.』を産み出すことが出来た。それと同時に小説家として大きく飛躍することが出来たのだろう。逆にもし『川の深さは』が受賞していたら、今の福井晴敏はいなかっただろう。
とはいえ、紹介はしておこう。モチーフは地下鉄サリン事件に擬しているとおもわれる、宗教団体による地下鉄の大規模爆破事件が起こる。実はその背景にはもっと大きい陰謀が動いており、そのキーを握る謎の少年と少女をある組織が血眼になって追いかけている。主人公はかつて○暴の刑事だったが、ある事件での警察のやり方に疑問を持って辞職、人生から下り、ビルの警備員としてかわりばえのしない毎日を送っている。そこに傷ついた少年と少女が現れ、二人をかくまったことから目に見えない謀略に巻き込まれていく。そして…
Twelve Y.O.』もそうだったのだが、「組織」というものの持つ「怪物性」に個人がつぶされてしまわれてしまう事へのレジスタンスが鮮烈に描かれる。それは決して派手なものではなく、心に灯るかすかな光がてらす「明日」という日への希望に気付くことで動き出す。本来「組織」というものは人間のために作られるものだが、現実を見ると、逆に人間は組織に翻弄されて、「人間性」を奪い取られている。そういうことにあらためて気付かせてくれる所が私は好きなのである。
ところで、タイトルの意味だが、話しの中に出てくるある心理テストに関係がある。「あなたの前に川が流れています。深さはどれくらいですか。1、足首まで・2、膝まで・3、腰まで・4、肩まで」さてこれでいったいなにがわかるのでしょう?知りたかったらこの本を読んでみて。