『カラシニコフ』読了
- 作者: 松本仁一
- 出版社/メーカー: 朝日新聞社
- 発売日: 2004/07/16
- メディア: 単行本
- 購入: 1人 クリック: 117回
- この商品を含むブログ (89件) を見る
題名となっているのは「悪魔の銃」とも呼ばれる、ロシアで開発された自動小銃の名である。筆者は朝日新聞の海外特派員で、内戦や混乱の続くアフリカの国々をまさに命がけで取材している人だが、そうした場所の多くでこの銃が使われていることに疑問を持った。なぜこれほど大量に同じ銃があふれているのか?その疑問を追って行くにつれて次々に見えてくる重い事実。詳しくはこの本を読んで欲しいのだが、私が特に強く考えさせられた点を三つだけ挙げておく。
一つは、第二次世界大戦以降、アフリカ諸国は民族の自治を勝ち取り、不当な植民地支配から解放され、それぞれ順調に自立の道を歩んでいるという自分の勝手な認識が間違いであったということ。そこには多くの「失敗国家」があり、政府の統治能力の欠如によって学校や警察が存在すらしない国さえあるということだ。私たちの感覚では、国家・政府は国民の生活を(見える部分でも見えない部分でも)支えていて当たり前なのに、逆に国民の足を引っ張っているような「国家」の存在には驚かされる。そして逆に住民の力で自治がちゃんと成り立っている地域が、「国家」として認められないために苦しんでいるという場合もあるということだ。こういう国々にこそ様々な援助が必要なのに、先進国も国連も手をさしのべることがないのはいったいどうしてなのか?同じ「人間」が苦しんでいたら何かしてあげられることがないか考えるのが「人間」なのではなかったのか?そのくせ、イラクに多大な軍事力と金を投入するのはなぜなのか?日本も資金だけは出しているようだが、結局は能力のない政府に金を渡すだけで、全く住民のためには使われていないらしい。
二つ目はそういう国々で、カラシニコフがあふれているのは、他でもない先進国のせいであるということだ。東西対立や、資源をめぐる利権のために、「援助」という名目で大量の銃を送り込んだ、そしてその銃が今も内戦の主力武器となっている。直接それをした国、あるいは先進国全体が、アフリカの混乱を助長した責任を取るべきではないのか。
三つ目は、子供たちが銃を持たされ、兵士にされるのにほ理由があるのだということ。カラシニコフは非常に単純な機械だ。(分解してもたった八つしか部品がないのだ!)手入れも簡単で故障も少ない。だから、子供でも容易に扱うことができる。そして、子供は大人に逆らえない。大人を無理に兵士にするのは難しいが、子供なら簡単に忠実な兵士にすることができる。そこで行われるのは反政府勢力が小学校を襲って、子供たちを大量に拉致して自分たちの部隊の一部として訓練し、実戦に駆り出すという私たちには想像もできない悲惨な行為だ。銃が力を発揮するには、それを撃つ人間が必要だ。子供たちはまるで銃の付属品扱いされているのだ。ある意味でこれは「教育」というものの持つ危うさを示している。
そいういうわけで、とても勉強になりました。みなさんも興味があったら是非読んでみて下さい。Sさん、教えてくれてどうもありがとうございました。