『キノの旅』読了

キノの旅―The beautiful world (電撃文庫 (0461))

キノの旅―The beautiful world (電撃文庫 (0461))

前々から読もうと思っていたが、図書館に行ってもいつも途中のしかない。かなり人気があるようだ。たまたま1巻を発見したので即確保。予想していたイメージとはかなり違った内容だったが、すごくイイ。まず、「キノ」がイイ。職業「旅人」。年齢、不明。国籍なし。大人でも子どもでもなく、周囲も自分も性別をほとんど気にとめていない。ハンドパースエイダー(「拳銃」のこの世界での呼び名)の名手。何ものにも縛られず、境界線に意味を見出さない、というのは、私にとって理想的な境地だ。普段は、ただほわっとしている(ように見える。しかし、自分でも気付かない心の奥で、いつでも静かに怒りと哀しみをくゆらせている)が、危機に立たされれば、冷静な判断力と、非情なまでの行動力を発揮する。話もイイ。はじめは淡々と世界を眺めているだけの話で、え、このまま?と思うが、途中から俄然面白くなる。しかも、そこを過ぎた時点で前の話を考え直してみると、ああ、すごいな、この作家よっぽど自信があるんだと思わされる。どこかで書いたが、「旅」には通常、「目的」と「地図」が必要だ。宝を探すため、とか、父の敵を討つため、とか。しかし、キノの旅にはそんなものはない。キノはただ世界を見るため、そしてその理不尽さを知るために旅を続けているとしか言えない(今のところは)。また、キノは理不尽を正すいわゆる「世直し」をして歩いているわけでもない。そこがまたいい。とりあえず、私たちにとって「世界」は「理不尽」であり、それをどうすることもできない。だからといってそれに「馴れて」しまったり、それから目を逸らしてしまったりしてはいけない。それを、タマネギの皮をむくように一枚一枚剥がして見せてくれるのがこの本なのだ、と私は思う。明快で、しかも真正面から生きることに立ち向かう小説、やたらにはぐらかして難解にして高級ぶった文学よりも価値がある、と私は思う。しかも、面白い。オススメである。一つだけ文句を付けるとすれば、キノの相棒、モトラド(空を飛ばないエンジン付き二輪車をこの世界ではこう呼ぶ)の「エルメス」は「ボケ役」だと思うのだが、まだその魅力が発揮されていない。今後の精進を期待する。(はやく2巻以後が読みたい)