佐藤多佳子『黄色い目の魚』読了。
母親との気持ちのすれ違いで家に居場所が無く、学校でも嫌いな人間ばっかりで、感情がささくれ立っている少女「村田みのり」。みのりが唯一落ち着ける場所は、叔父さんであるイラストレーター「通ちゃん」のアトリエ。物心つく前から母親に別れた夫(つまり父親)「テッセイ」の悪口ばかり聞かされて育った「木島」は、無理にやらされたサッカーを続けているが、今ひとつ伸び悩んでいる控えのキーパー。木島は無意識のうちにノートに人の似顔絵を落書きするのが癖だが、それが妙に相手の欠点を見抜くような嫌な感じのデフォルメになってしまう。みのりと木島が初めてしゃべったのは、その絵を見てみのりがいきなりケンカを売ったからだった……。しかし、やがてお互いに特別な存在として意識するようになっていく。そして、少しずつ二人は変わっていく。キーワードは「絵」。人が絵を描くのはなぜだろう。それは、描いているものをもっと知りたいからとか、その記憶をずっととどめておきたいからとか、自分の中にどうしようもなく湧き上がってくるものを形にしたいからとかいろいろだ。そして音楽とか、文章とか、写真とかも同様なのだろう。方法はどうであれ、誰もがそういう「表現」をしたいという強い気持ちがあるはずだ。でも、それを「仕事」としてやっていく、というのは誰にでも出来ることではない。それは「才能」の有無だけで決まることではない。いくら才能があっても、いくら描くことが好きでも「テッセイ」みたいになる危険性(テッセイの生き方を完全否定するわけではないが)はあるのだ。自分の周囲に、「共鳴」とか「共振」してくれる人がいるかいないか、というのが大きいんじゃないのかなあ、というようなことを考えさせられた。
女子限定でかなりオススメ。でも、本の帯に「高校生の恋愛グラフィティ」とか書かないで欲しい。そういう話ではありません。私は恋愛小説は苦手ですが、これは好きです。なんか、同じ児童文学出身で角田光代という人が最近直木賞をとったんだけど、佐藤多佳子の方が全然いいと思うんですが偏見でしょうか。(角田光代も同じく直木賞作家の山本文緒も一冊読んだだけで嫌いになった私)
タイトルは「通ちゃん」が描く人気漫画の主人公キャラクター、目が黄色で逆三角形の人相も性格もめちゃくちゃに悪い魚「サンカク」(原案はみのりの小さい頃の絵)。イコール「みのり」なのか、というとそうでもないんだけど。

黄色い目の魚

黄色い目の魚